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ダイアリー
白骨の章(2014.11.13)
水草のように(2010.9.1)
絵の具(2010.5.31)
くもの糸(2010.4.12)
美しいものへの憧れ(2005.10.24)
オペラ「インテルメッツォ」に寄せて(2004.6.3)
草野心平の「蛙の歌」(2002.12.3)
感動の瞬間に何がおこっているのか(2000.3)
ドイツからオーストリーに向かう車中にて(2000.12.3)
くもの糸(2010.4.12)

ある夜、皆が眠りにつき静まりかえった我が家で一人眠れずにいると、ふっ、と明かりに照らされている空中に浮かぶ小さな蜘蛛を見つけた。
音の無い空間に小さいながら異様な存在感を感じながらも「夜の蜘蛛は…縁起が良くないし…」という小さな頃から聞かされていた風習をもとに、私はその蜘蛛を何かで叩いてしまおうかと思っていた。
しかし、蜘蛛の上にすうっと伸びる細い糸が明かりに照らされているのを見て、 「この蜘蛛、すごいな」と瞬間的に思って、その蜘蛛を私はしばらく眺める事になった。

蜘蛛は部屋の天井から垂直にぶら下がっていた。
自らの体から出した糸にぶら下がっていた。
音も無い深夜の部屋で、空気も停まっていた。
だから、蜘蛛は安心して自分の身を糸に委ねていた。
きっと私の存在に気づいていなかったのだろう。
私の目線の少し上で、手足をゆっくりと動かして時おり2センチくらいすうっと下がったりしている。

あまりに糸がまっすぐで、そこに蜘蛛の体が地球の中心にまっすぐ引っ張られているので、息を吹きかけて糸を揺らしてみたくなった。
糸がゆれた。
蜘蛛は一目散に糸をたぐり寄せ上へ上へと上って行く。
息の勢いが強すぎればきっと糸が切れて床に落下しただろうが、幸い糸は切れることなく、蜘蛛は天井までたどり着いた。
体のおなかの所には急いでたぐり寄せた糸の塊が見えたような気がした。

蜘蛛が天井に着くと何故か私も安心し、そのまま眠りに付いた。

あの蜘蛛の姿がまぶたの奥に焼き付けられている。
静かな夜のくもの糸。
あそこに蜘蛛以外の者がしがみついて切れないなんて本当は無いはずだ。
でも、何かの力で強い糸に変わるのだろうか。

信じる力だろうか。


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